第 3885号2023.07.30
「蛍」一休さん(ペンネーム)
我が家には、江戸時代から続く用水が流れている。そこに蛍が住み つくようになったのは10年以上前のことである。その頃、上流の 玉川上水で蛍の放流を試みたということで、そのおこぼれが流れ着 いたものであろう。 それから今まで、何とかその蛍を守り続けている。用水が1年中流 れてくれれば問題ないのだが、工事などで止まることがある。10 日も止まると、川底はカラカラに乾き、そのままでは蛍の幼虫もエ サのカワニナも死に絶えてしまうだろう。そこでやむを得ず水道水 を流したり、川底に落ち葉や草をまいたりして湿気を保つよう工夫 している。 蛍の幼虫は、春先の暖かい雨の晩に水から上がり、岸辺の土の中に 繭を作る。岸をよじ登る幼虫がかすかに光を発しているのを目撃し たこともある。この繭の状態で2週間ほど過ごし、いよいよ成虫に なるのだ。 毎年、5月の下旬になると、夕食後必ず用水の縁に出て蛍を探す。 今年は5月25日の夜飛び始めた。今年は特に、用水の止まった 期間が長かったのでほとんどあきらめていた。見つけた時は思わず 歓声をあげてしまった。 蛍の発生は6月初旬の夜、9時から10時頃がピークなる。この頃 のオスはとても元気がよく、かなり高く、遠く迄飛び、恋の相手を 探す。毎晩、妻と庭に出て、今夜は何匹飛んだと数えるのが日課に なる。 6月中旬になると、日一日と飛ぶ数が減ってくる。終り頃は、水際 の草陰で弱い光を放つばかりになる。「この蛍はうまく恋の相手を 見つけられたのだろうか」、「迷い蛍になっているのではないか」 と心配する。蛍の成虫の寿命は、1週間位で、この間水を飲むだけ で、交尾して2,3日で命が絶えるそうだ。 力尽きて用水に落ち、なお光りながら流れ落ちていく姿を見るのは、 まことに哀れなものである。 蛍よ、来年も戻ってきておくれ、私達も、きっと元気で待っているよ