第 3875号2023.05.21
「虫愛ずる連合い」坂本 文和
最近は気候の温暖化のためか虫にも季節感があまりなくなってきた。 私は人並みに蜘蛛やゴキブリなどが嫌いである。台所で彼らをみつ けると、恥も外聞もなく大声で騒ぐ。残念ながらその遺伝子は子供達 にも伝わってしまったようだ。 ところが私の連合いは虫を一切怖がらない。蜘蛛や蛾などが窓から 飛び込んでくるとチリ紙を使って摘んで窓から外に出してやる。 特にゴキブリが出てくると、あっゴキちゃんだと言ってチリ紙で 摘むと逃げ腰の私に見せた後、庭に運んでいく。始末しないと切りが ないよというと、どうぞお帰り遊ばせと言って大地に下ろす。 先日、連合いに捕まえた虫をどうして始末しないのかと問うてみた。 すると「あなたのお仕事と関係あるのよ、あなたと結婚した時 生き物は絶対に殺生しないと誓ったの」と宣った。そうか私がこの 仕事を五十年間無事にやってこれたのも「虫愛ずる連合い」のお陰 だったのか。 そろそろお昼である。そいえばこの弁当も五十年間一度も休んだ ことはない。 おかずは月曜から金曜までの五種類しかないが皆勤である。今日は 帰ったら肩でも揉んでやろうかと思いながら弁当箱の蓋を開けた。