第 3870号2023.04.16
「ラマダン明け」猫のミミ(ペンネーム)
今年も新学期が始まった。一年間、ともに学ぶ学生の中にイスラム 教徒の子がいた。その学生の顔を見ているうちに、数年前の教え子との やり取りを思い出した。 彼もイスラム教徒の学生だった。非常に厳しい宗派に属しており、 断食が課されるラマダン中は水を飲むことすら許されない。彼は ラマダン中も毎日登校し、授業を受け、スポーツ大会にも参加した。 スポーツ大会では競技中、ほとんどふらふらしていた。皆が お弁当を食べている時は飲まず食わずのまま青い顔をし、ぼんやりと 空を見つめていた。 教員の誰もが彼の健康状態を心配していたが、なんとかスポーツ 大会は終わり、彼も無事に帰宅した。 翌朝、常に授業時間よりも早く教室の席に座っている彼と会った。 学校の近所のコンビニで購入したのだろう、フルーツ入りのゼリーを 食べている。 私はそれを見て彼に声をかけた。「ラマダンは明けたの?」と。 彼はゼリーを食べながら「はい。」と答えた。 その時、私は本当に何の考えもなく思わず言ってしまったのだ。 「良かったね。」 言った直後、彼の返事を聞く前に私は自分の言葉が不適切であった ことに気づいた。そして「良かったね、はおかしいよね。」と、 苦笑いをしながら言った。 彼も「うん、先生、良かったね、はおかしいね」とツッコんでくれた。 私はごめん、と言いながら、少しだけ笑った。 彼は私が人生で初めて関わったムスリムの人だった。彼らに対し、 自分には差別も偏見もない、と思っていたが、同時に理解もなかった。 その時初めて、自分の価値観でしか物事をみていない自分とも 出会ったのだ。 あれから何人かのムスリムの学生と出会った。そして、あの時より 少しは理解できている自分とも出会っている。 ようこそ、日本へ。一年間よろしく。 そして少しだけ成長している私、はじめまして。