第 3732 号2020.08.23
「留守番」
我妻 文子(ペンネーム)
多忙な夫は休日が少ない。たまの休みくらい、ゆっくり眠ってほしいと思い、 休みの日ほど早く起きる息子達を散歩に誘った。 駅で蒸気機関車を見て、鯉に餌をあげ、木苺を摘んで帰る子供達が 大好きな散歩コースだ。でも、いつもなら一番に飛び出す長男が 中々出てこない。 「げんちゃん、行かないの?」 「行かない。」 「みんなで行こうよ。」 「行かない。」 こんな会話を何度か繰り返したが、どうしても行かないという彼に 負け、お父さんを起こさない約束をして私は弟達と散歩に出かけた。 いつもと違う長男の様子が少し気がかりだった。 次男は 「げんちゃんにおみやげ」 とポケットいっぱい木苺を詰めた。 一時間ほど歩いて帰宅すると、長男が玄関にかけてきた。その目は 少し涙目で、やっぱり一緒にいけば良かったと後悔していたのかと 思うと私も胸が苦しくなった。少し潰れた木苺を食べながら 「どうしてげんちゃん、今日はお母さんとお散歩してくなかったの?」 そう聞くと 「だって、もしもお父さんが起きたときにお家に誰もいなかったら お父さん悲しむでしょ?だからげんちゃんだけはお家にいてあげたいと 思ったんだよ。」 今度は私が涙目になってしまった。このことを夫に話そうか、すごく 悩む。知ったらきっと、どんな疲れた日も早く起きて息子達と 思いきり遊んでくれるから。