第 3642 号2018.11.11
「 大事な時間 」
葵 智恵(ペンネーム)
空が澄み渡ったさわやかな天気のある日の事。
時々、休む近所の喫茶店。私はいつものように編み糸を出し、子供の頃、大好きだった祖母から教わった「かぎ編み」の編み棒を手に、耳にはお気に入りの音楽を聴きながら、かぎ編みをいそいそと始めていたのでした。三十分程、経った頃、隣の席に、あるご婦人が座りました。何かを私に言っている様子です。私は、イヤホーンを取り、ご婦人のほうを見ました。「あら!編み物ですか?まあ綺麗に編み目がそろっている事、ご性格が現れていますね」と…。
ふとテーブルを見ると以前に作った小さな小物入れ(ポーチ)が置いてありました。糸や小さなハサミを入れる愛用の自作のポーチです!私は、へえー性格って、こんな小さな物にも出てしまうのかしら?…と改めて、この編み物の目を見直しました。と同時に少し恥ずかしさも出ました。一日のうちで編み物に熱中している時が一番楽しい時間。それはほんの、十分でも一時間でもいいと思うのです。その人が一番楽しいと思う事を少しづつでも日々行う。
ハーブティーやお茶に凝っている人は、美味しいお茶を入れて気持ち良く楽しんでいる時間。花を見るのが好きな人は、花屋に立ち寄って、何か新しい花はないかしら…と探す時間。夕日を見るのが好きな人は、秋の頃の一番美しいと思える夕日をじいっと眺める時間。私は和装も好きで年に何度か、亡くなった祖母が大事にしていた着物に袖をそっと通します。祖母の残り香があり、それは祖母にすっぽりとつつまれているように感じるのです。それは誰にもわからない秘密に満ちています。その人その人なりのこだわりで時を過ごす事の大切さ。歳を重ねるごとに、しみじみと思うこの頃です。