第 3410 号2014.06.01
「 母の着物 」
匿名
急に従妹が結婚すると報告してきた。半年後に結婚式を挙げるとのこと。小さい頃から夏の旅行は叔父一家と行くのが定番だった我が家。私の写真には、いつも従妹の無邪気な笑顔が溢れている。そんな大切な従妹のお式には彼女が私の結婚式でも着てくれたように着物でその慶びを表現したいと思った。
さてどの着物で行くとしようか?悩んだ末に2つの着物に絞ることができた。1つは嫁ぎ先の祖母の着物。内科医だった主人の祖母は明治生まれ。開業医として忙しい日々の中でも一人の女性としていつか着ようと外商から求めた反物は仕立てられることなく、主を亡くした今も桐の箱から出ることなく眠り続けている。
もう一つは母の成人式の着物。綸子に桃色の牡丹がかわいらしく、祖母から母への愛情を深く感じられる。私も小さい頃からこの着物が似合う女性になりたいと憧れていた。
従妹は母方の血縁者。記憶を辿っていくと、そこにはいつも孫の幸せを誰よりも喜ぶ亡き祖母の姿が昨日のことのように浮かぶ。
「おばあちゃんと一緒にお式に出たい」突き上げる思いが私に母の着物を選ばせた。
着物は現代では場所をとり、邪魔者扱いされがちだ。しかしながら時を経て家族の思いを現代に引き継ぎ、融合させることができる不思議な力を持っていることに、着物を選ぶ過程で今更ながら気づかされた。
断捨離が流行る今日この頃。私は家族の思いを大切にする心の余裕は捨てずに持ち続けていたい。