第 3367 号2013.08.04
「 帰省 」
いわを・ことは(ペンネーム)
新幹線の駅のまわりだけ都会化された町は、タクシーでちょっと走れば、のどかな田園風景へと変わる。丁度、西の空が夕焼けに染まり始め、それを映して光っているのは水田だろう。
お寺の大きな瓦屋根が見えてきた。
あそこの裏門から出て、細い道をぐるりと駆けて行けば、家並みが途切れ、葦の茂る小川が現れる・・
そこのイヌマキの垣根を入れば、狭い道があり、それを潜るように辿ると、畑の先に神社の鳥居が見えてくる・・
思い出の中の故郷は、掌に入ってしまうほどに小さい。
墓石に柄杓で水をかけ、線香に火をつける。
煙のたなびく方を見ると、暮色を濃くした空があった。
この風景から、自分だけが切り離されたように感じるのは、此処に、待つ人がもういないからかもしれない。
お花ガラを片付け、お墓に声をかける。
「また来るね・・」
この思い出がある限り、それでも、此処は私の故郷なのだろう。
思い出を、心で包んで帰ろう。
桶を持って歩き出す。