第 2979 号2006.02.26
「 紙雛に寄せて 」
外 沢 文 代(板橋区)
私の家に一対の紙雛があります。20数年前両親が九州へ旅行した時に機中で親しくなった男性から戴いたもので、その方の手作りです。
聞けば、ペーパークラフトの名手だった奥様が亡くなったあと、その男性が、奥様の作品を見よう見まねで手作りし、亡妻を偲んでおられるとのこと。不出来ですが・・・と遠慮がちに差し出されたそれを、つぶさぬように大事に持ち帰ったものなのです。美しい千代紙を丹念に折って作られた親王飾りは、四半世紀の時を経た今も色褪せることなく、雛祭の時期の我が家の玄関を優しく彩ります。
今年はふと思い立ち、そのお雛様に合わせて雪洞を作ってみることにしました。まずは材料選びですが、木を削って本格的なものにするには技術が未熟です。かといって、あまりに安易な作りでは桐の台座の紙雛が泣きます。試行錯誤の末、洋菓子の黒い箱をベースにすることにしました。これならツヤがあり遠目には漆に見えるので材質もピッタリです。何とか骨格を作り、遠山と春霞の透し模様の懐紙を貼って、篝火風の雪洞が出来上がりました。雛の両脇に添えると、何やらお雛様自体も生々として見えるから不思議です。
幸いにも、両親は今も健在で、旅行に趣味にと悠々自適の生活を送っています。あのときかなりの高齢とうかがったお雛様の製作者の男性はお元気かしら。私の家族のすこやかで幸せな暮らし。それも一対の紙雛がもたらしてくれたものなのかもしれません。