第 3731 号2020.08.16
「晩夏の哀愁」
阿部 敬子
せみ時雨が激しくなった。灼熱の太陽の中、弟と二人で母の墓参りへ 行った。新盆である。去年の今頃は、まだ元気だった。ひまわりのよう に明るい笑顔と、おっとりとした話し方で娘の目から見ても、かわいら しくて優しかった母。大好きな高校野球を見て熱い声援を送っていた。 が、九月に入り病気にかかり、懸命の介護も空しく、あっという間に 天に昇り八十三年の人生に幕を閉じた。 墓に手を合わせ話しかける。お母さん、元気ですか。一人暮らしは 早、十ヵ月。日々、頑張ってますよ。家の維持は大変だから節約生活が 上手になりました。庭の草取りは一週間に一度しています。きれいな庭 は、そのままで。おかげ様で仕事は充実し、小学校で子供たちの笑顔に 包まれながら働いています。人に恵まれているような気がします。仕事 仲間、友達、ご近所さんからの頂き物も多くて。皆さん、良い方達で 沢山の人に支えられ生かされて感謝の気持ちで一杯になり、一人だけど 心、温かな毎日です。 弟のフミは頼りになります。行動力があり相談にも乗ってくれる。 姉思いの優しい男です。彼の存在は大きい。だから心配しないで見守っ て下さい。 「姉貴、ちょっと長くないか。暑いから、のどが渇いた。早く冷たい ビールを飲みに行こうぜ」 と弟が話しかけてきた。 「オッケー」と返事をして居酒屋へ。思い出話に酒のペースが進んで いく。ほろ酔い気分になった頃、弟の手が止まり私の顔をまじまじと 見て言った。 「お袋さんに似てきたなあ」 私は、ゆっくりとうなずいた。母が注いでくれた愛は忘れない。 潤んだ目から、ひとしずく、涙が落ちた。