第 3729 号2020.08.02
「誕生日が同じ」
MAIKO(ペンネーム)
猛暑のせいにして、いつもは取らない夏の休みを取った。 3日間。 特に目的があるわけではなかったが、とにかく気持ちのままに過ご すことにした。 最終日。 家でのんびりするのにも少し飽きてきて、午後遅くになって散歩に 出かけた。 ふと、前から行きたかった紅茶のお店に行きたくなった。 路地に面したドアを開け、狭い階段を昇っていく。 「こんにちは。まだ大丈夫ですか」 「大丈夫よ。17:30までは営業時間だから」 その日は暑かったが、 お店に入ると、なぜか温かい紅茶で一息つきたいと思った。 お店の窓から見える景色が広々としていた。 それを見たら、冷たい紅茶をさっと飲んで涼むよりも、 ゆっくりとそこにいる時間を味わいたいような気持ちになった。 「ジンジャーミルクティーをお願いします」 店のマダムが紅茶を淹れている間、カウンターの横に置かれていた 雑誌を手に取った。 黄色の付箋が目に留まる。どうやらこのお店が紹介されているページ のようだ。 そこにはお店がオープンした日付が書かれていた。 年は違っていたが、私の誕生日と同じだった。 お店の客は私一人だったので、マダムに声を掛けてみる。 「こちらのお店がオープンした日と私の誕生日、同じです」 「そうなの?あなたもパリ際の日に生まれたのね」 その会話だけで、ぐっと距離が近づいたような気がした。 「お待たせしました。熱いかしら」 「猫舌なんです」 ふうふうしながら、窓の外を眺めながら、紅茶を味わう。 やっぱり温かいのにしてよかった。 そんな思いにひたっていると、私の目の前にケーキが運ばれてきた。 「明日お休みなの。よかったら召し上がって」 「えっ、いいんですか」 「いいのよ。誕生日が一緒だから、少し遅くなったけれどお祝いして あげたくなって。縁を感じたのよね」 「ありがとうございます!」 次の誕生日を迎えることなく、その店は長い歴史を閉じた。 また一緒に、誕生日を祝いたかった。