第 3726 号2020.07.12
「ラッキーおじいちゃん」
ひまわりぐみ(ペンネーム)
5歳の息子に友達ができた。 その友達は、息子より70歳は年上ではないかと思う。 息子と保育園に通園する際に、必ず会うおじいちゃんがいる。 おじいちゃんは脳梗塞を患ったのだろうか、左半身が思うように動かず、 寒い日も暑い日も、毎日毎日リハビリのために歩いている。 私たちは、毎日おじいちゃんの背中を追い越して保育園へ通った。 1年ぐらい経っただろうか、息子がこう言った。 「毎日会う人は友達なんだって。だから、あのおじいちゃん、もう僕の友 達だよね?」と。 「そうかもね。だったら、大きな声で挨拶してみたら?」と息子に伝えた。 そんな話をした次の日、いつも通りおじいちゃんの背中を見つけた。 「『おはよう』してみようかな…」と少し恥ずかしい様子の息子ではあった が、「おはようございます!」と大きな声で言えた。 おじいちゃんは見知らぬ子どもから、いきなり声をかけられたので目を丸 くしていたが「おはよう」と返してくれた。 息子は、挨拶してくれたのがとても嬉しかった様でニコニコが止まらなく なり、走って保育園へ向かった。 そこから、毎朝保育園へ通う道は、おじいちゃんの背中を見つける楽しさ に溢れた。 「おはようございます!行ってきます」 「おはよう。」 ただ、これだけのやり取りなのだが、おじいちゃんに挨拶をすると、なん だか1日ラッキーな事がありそうな気がするのだ。 そんな息子も、今年で小学生になった。 保育園と小学校では、家を出る時間が違ってしまう。 息子は「もう、朝会えないのかな…」寂しそうに言いつつ、やっぱり交差点 では毎日キョロキョロとおじいちゃんを探している。 合えた時には、羽根がはえたように飛んでいく小さな背中と、おじいちゃんの 背中が並ぶ。 楽しそうな2つの背中を見て「今日はラッキーデー!」と私の心が鳴る。 ラッキーおじいちゃん。いつまでも元気でいてほしい。