第 3725 号2020.07.05
「スパンコールはお好き?」
のりちゃん(ペンネーム)
仕事からの帰り道、まだ玄関に着いていないのに、「オカエリ!」と大きな声が聞こえる。 声の主は、我が家のセキセイインコ君だ。 セキセイインコは、様々な色の種類があるが、彼はどうやらスパングルという種らしい。 羽の斑点の模様がスパンコールに似ていると言うのが、名前の由来だそうだ。 あらためて眺めて見るとたしかに華やかさを感じる。 彼が我が家にやってきたのは、2年前ほど前。家内に病が見つかった直後である。女性 の十数人に一人がかかると言われる病気だが、寛解と思っていた時期だけに、家内はもち ろんのこと、家族にとっても正直辛い宣告であった。 その辛さを少しでも癒したいとの思いから、夫婦で向かったペットショップで出会った のが彼である。自宅への帰り道、どこに連れて行かれるのかと、小箱の中で不安そうな彼 を横目に、名前をどうするかという話になった。私はハンドルを握りながら、一日でも早く、 幸せな日々が来るよう、そして、明るく、前向きな気持ちで毎日を過ごせるよう「ハッピー」 はどうかと提案したところ、意外にもすんなりと決まった。不安な気持ちを抱えながら、 病に立ち向かおうとしている家内に、その時は口に出して言えなかったが、彼の名づけ親に なれたことがちょっと嬉しかったのを思い出す。 かつて、家内を癒し、家族を励ましてくれた“前任”の文鳥君のこともあり、彼への期待 は高かったが、プレッシャーを感じさせない、マイペースな彼の振舞に、何度救われたことか、 いま思えば、彼は、我が家の一員になったその日から、何か使命を感じ、私たちのことを 励まし続けてくれたに違いない。 長い闘いの月日を経て、我が家に笑顔と笑い声が日増しに増える中、スパンコールをまとった 彼は、これまで私たちがずっと話かけていた言葉を、今日も相変わらずのマイペースで口ずさん でいる。 「ハッピー、ダイスキ!」