第 3720 号2020.05.10
「自分に向き合えたモンゴル」
山極 尊子(さいたま市)
「今仕事辞めたら、ふつう就職は難しいよ?」 会社を辞めると決めた時、家族や友人がそんなことを言った。 8年前、私は勤めていた会社を辞め大学院に行こうとしていた。当 時、私は29歳。ようやく小さな夢ができ、それを皆に報告したのだが、 返ってきた言葉は予想外に否定的な言葉ばかりだった。 さらに皆は私のためを思ってか、「就職は大変」という色々な記事や ニュースを引っ張りだしては私の大学院行きを反対した。私もだんだ ん不安になった。そしても私もついにその不安に飲み込まれ、いつし か転職についてのニュースを探したり、転職に詳しい知り合いに会っ てはアドバイスをもらったりするようになっていた。 たくさんの情報が入り、たくさんの意見は聞けたが、次第に私は何が 何だか分からなくなった。 そんな時、悩んでいる私を見かねたモンゴルに住む友人が「自然を 見においで」と私をモンゴルに誘ってくれた。友人の計らいで、あれ よあれよとモンゴル行きが決まり私は遊牧民のSさんの家で一週間ホ ームステイをすることになった。Sさんの家はガスも水道もない場所 だった。部屋では薄暗い明りを灯し水が飲みたい時は凍った川から 氷をとり、やかんで沸かして飲むという日本人の私からみたら“ふつ う”は住みにくい環境だった。それでもSさん一家はとても幸せそう だった。インターネットも何もない情報が遮断された空間、私はそこ で自分自身にゆっくりと向き合うことができた。 最終日。Sさんは「自分の人生を楽しんで」と私をぎゅっと抱きし めた。私はモンゴルで「“ふつう”の価値観は人それぞれ違う」とい う事を学んだ。 8年後の現在、私は大学院を卒業し夢だった日本語講師をして充実 した日々を送っている。 「自分の人生を自分で決めてよかった」 そう思う。今でも自分の人生に迷った時、私はいつもあの壮大なモ ンゴルを思い出す。そしてモンゴルにいたあの日のように、日本で 自分自身にゆっくりと向き合うのだ。