第 3716 号2020.04.12
「知らない世界」
さつまいも(ペンネーム)
平成最後の夏。第一子の出産予定日を約1ヵ月後に控え、里帰り
出産の準備に追われていた。産休に入ったら、と先延ばしにして いた、悪い癖。結局、病院から指示のあった“ここまでに”のそ の日、夫に付き添ってもらい帰省した。 今回の妊娠を機に母から私を授かったときの母子手帳を預かって いた。大方の体裁は変わっていないが、昔は今とは違って検診の 間隔がかなり空いている。そうだよなぁ、今じゃ3D、4Dエコー なんてのもあるのに、30年前は胎児のことは詳しく分からなかっ たに違いないよなぁ。 里帰りしてからも父も母も休みの日、デパートに何十年ぶりに3人 で出かけた。道中、父が「あれはビックリしたよなぁ。ほら、お 母さんが風疹にかかったとき」と言う。いつ?「〇〇(私)がお腹 にいると分かった時くらいかなぁ」母が「あぁ、あの時ね、お医 者さんに赤ちゃんはもうダメだから堕ろしましょうって言われた のよ。でも別のお医者さんで少し様子を見ましょうって言っても らって、出産したのよ」と言う。生まれて初めて聞く話だった。 私は「へーそんなことがあったんだ」と内心のザワつきをよそに それしか言えなかった。 今年34歳になるが、今まで大きな病気や怪我もなく、いたって健 康体な自分がもしかしたら生を受けていなかった過去があるとは 本当に驚いたし、母のそのときの心情を思うと胸が詰まる。いろ んな葛藤や不安があっただろうに、様子を見ましょうと言ってく れた先生を信じて出産を乗り切った母の強さを始めて知ったよう な気がした。 そして、平成最後の暑い夏の日に無事生まれた我が子はすくすく と成長し、もうすぐ1歳半になる。あなたのおかげで知らなかっ た世界が広がりました。きっとこれからもたくさん広がる気が しています。私はまだ「母は強し」とは言えないけど、私たちの ところに来てくれてありがとう。命を繋げてくれてありがとう。