第 3712 号2020.03.15
「卒業式」
木越 掛(ペンネーム)
昨年から、自治会の役員を務めている。その縁で先月、地元の
中学校の卒業式に出席した。昔ながらの厳かな雰囲気を保ちつつ、 生徒たちによる手作り感も加わって、ジーンと迫るものがあった。 校長の餞の言葉や卒業生代表のお別れの言葉を聞きながら、私の 胸に去来したのは、我が娘の卒業式だった。 娘は、中学2年の夏頃から登校を渋る様になり、夏休み明けか らは全く学校に行けなくなった。家ではいつも明るい娘が、平日 の朝、玄関の扉を出た所で、足が竦んで動けなくなってしまうの だった。そんな初めての経験に、親としてどう対応したら良いの か暗中模索の日々が続いた。その間、娘は金八先生を始めとして、 学園ドラマのビデオを繰り返し見ていた。学校に行きたい気持ち だけが先行し、現実が伴わずに悶々としている娘の気持ちを思う と、ただ不憫でならなかった。 卒業式当日の午後、娘と妻だけが登校し、校長室で「中学校の 過程を終了したことを証する」と書かれた証書を頂いた。本来な ら、そこに沢山の楽しい想い出が詰まっているはずなのにと思う と、一層切なさが募った。 ところが、高校に入学して一変した。始めこそ、それまでを引 き摺り、うつむき加減で登校していたが、余程その学校の水が合 ったのか、次第に活き活きとし始め、それまでの空白期間を一気 に取り戻すかの様な勢いで、極めて濃厚な高校生活を送り始めた のだ。勉学は勿論、体育祭などの各種行事にも熱心に取り組み、2 年の秋からは生徒会長を務めるまでになった。 そして迎えた高校の卒業式。卒業生を代表して登壇し、堂々と お礼の言葉を述べる娘の姿には、自分を見失い自信を無くしてい た中学時代の面影は微塵も無かった。あの辛かった時期を克服し、 ここまで辿り着いた娘を誇らしく感じながら、私はとめどなくあ ふれ出てくる涙を拭うことも忘れていた。 それは、私にとって決して忘れることのない卒業式となった。