第 3704 号2020.1.19
「ひとり言」
石川 まき子(狛江市)
夫が亡くなって四ヶ月が経とうとしている。
十二指腸ガンで八十歳だった。胃ガン、大腸ガンなどガンの検査は毎年やっていたのに、十二指腸ガンはめずらしく、わからなかったという。一年足らずの闘病だった。八十四キロもある大男で、心身ともに元気だった人だけに、私にはまだそのことが受けとめられないが、もっと早く亡くなる人が多い中で、八十歳まで元気で生きたのだから……と自分に言いきかせている。 夫が居なくなって一人暮らしになった。居間に写真を飾り、毎朝冷たい水を供え、ろうそくに火をつけ、お線香をあげて私の生活が始まる。 「きょうはねー。××へ行くの」と私のひとり言が始まる。テレビのニュースを見ながら「ひどいわねぇ」とか、「わたしはこう思うわよ」とか、いつも何かしゃべっている。 人が見たら私がひとり言を言っているので、妙に思われると思うが、家には私ひとりなのでかまわない。 夫が生きているときもそうだった。夫は新聞を読んだりテレビを見ながらいつも私のしゃべるのを聞いていた。あまり何も言わないので、「ねぇ、聞いているの?」と私が怒ると、「聞いているよ」とおだやかな顔で笑っていた。 だから、今も私は夫に話しかけている。 こんな生活がいつまで続くのか、今年一杯で居間の写真を片付け、二階の仏だんに返そうと思っている。 そして、夫のいない生活に慣れて、未亡人として一人立ちしなければ……私のひとり言生活にもピリオドを打とうと思っている。