「 嫁ぐ娘への思い 」
嵐(ペンネーム)
娘の結婚が決まってからというもの、一日一日が寂しくて虚しくてたまらない。
そんな心境の中、目に浮かぶ幼いころの娘。
生まれたとき、そして歩いたときなど何度も何度も感動をくれた娘。仕事に感け、単身赴任を続け、よき相談相手にもなってやれず、今更ながら申し訳なかったと猛省する。
しかし今、その溺愛する娘が、見ず知らずの男性の元へと行こうとしている。
父親としてこれが、喜びなのか、それとも親を見捨てた不埒なやつと軽蔑すべきなのか、二つの思いが頭の中を交錯し、喜びだけが色彩を放つものの寂しさは、拭いきれない。
娘は、そんな父親の想いとは裏腹に、これから始まる新生活に向け、日々準備に追われつつ、笑みを浮かべ非日常から日常への変化を楽しんでいる。
今、まさにバラ色でしかない結婚も実は茨の道、若いふたりには、考えも及ばぬ世界の幕開けだとは、知る余地もないだろうが愛する人と一緒に創る温かい家庭という砦のもと幸福な人生を切り開いていって欲しいと心底願っている。
今は、教訓を語るより、祝福が一番の贈り物なのだろう。
それを裏づけるかのように最高の笑顔を見せてくれる娘。
父親っていうもの、娘のこの笑顔が見たいがため、一生懸命頑張ってきたのだと改めて痛感する。
今後この思いは、婿さんに託そう、娘が選んだ人なのだから・・・。
娘が生まれたときに、「女の子というものは、預かりものだ」と叔父に言われたことを思い出した。「娘っていうのはな、いつか嫁いでいくその日まで夫となる人の家から預っているものだと思って大切に育てていかないといけないよ、お返しするその日がくるまで」。
この言葉が今ようやく、理解でき、無性に目頭を熱くさせる。
お返しする日が近づくにつれ、「おとうさん」と呼ぶ娘の声が妙に愛くるしく感じ、「幸せになるんだよ」と独り言を呟く。
目から一筋の雫が頬を伝い、無骨な自分にも涙というものを思い出させてくれた。