第 3451 号2015.03.15
「 ガンバレ、若者よ! 」
おせっかい(ペンネーム)
久しぶりに朝のラッシュアワーの電車に乗った。最寄駅で乗車する時には1本見送ったほどの混雑ぶりだった。定年退職後は“通勤のプロ”の頃とは違う。気力が充実しなかった。
ドア近くの手すりにつかまり、倒れないようにと懸命に体重を支えること20分。乗車駅の一つ手前の駅に電車は滑り込み、乗客の身体が揃って大きく揺れてドアが開いた。誰も降りないとみたホームの数人がドドッと乗り込んで来た。
その時である。「降りる人がいますよ」という女性の声がした。
だが乗り込んだ人たちはさらに後ろから押す人がいるためもう降りることができない。今度は「降りる人がいるよ」と男性の声。
しかし乗り込む人たちの勢いを止めることができないようだ。
ところが周りの乗客が開けてやってくれと言っているのに当の本人の声は聞こえないし、あがき、もがいている人も見当たらなかった。
私は誰が降りようとしているのか確かめたくなった。人一人をおいて私の斜め後ろにいる背の高い若者がそれらしい。上気した顔を少し下にむけ、恥ずかしそうな表情を作っていたが、「降ります」「開けてください」という声も発せず、周りの人を押しのけようというリアクションのかけらも見せようとしない。そのうちドアが締まり、電車は動き出した。その若者は俯いたまま次の駅まで姿勢を崩さず、到着と同時に私を含む大勢の乗車客にもみくちゃにされてホームに押し出された。
私は彼がどうするのかとホームに立ち止まって見つめていたが、彼はホームの反対側の下り線を待つ人の群れの中に頭一つ出して佇み、スマホの画面をじっと眺めていた。
彼の決断力、実行力が足りないのだろうか。これからの人生の選択でも同じ失敗をしていくのだろうか。若者よ、ガンバレ!
と密かにエールを送った。