「 蓼食う虫も好きずき 」
向田 紗知(ペンネーム)
私は、典型的な女子校育ちで、二十歳をすぎても男友達の1人さえいなかった。このまま一生独り身で、窓辺で猫と一緒にひなたぼっこをしながら天国に召されるものだと、女子大生にして半ばあきらめの境地に達していた。
しかし、神様は何を考えているのかわからないもので、深夜のレンタルビデオ屋のアルバイトをきっかけに私は恋に落ちた。恋といっても、帰国子女であった彼があまりにも日本の常識に疎く仕事ができないものだから、甲斐甲斐しく世話を焼いていたら仲良くなり、だんだんとシフトをわざとかぶせるようになって、気がついたら一緒に映画を見ていて、その帰りに勢いで手をつないだというありきたりないきさつだ。白馬の王子様は、東京の深夜のレンタルビデオ屋にいる訳がないので、こんなものかもしれないけれども、それにしてももう少しロマンチックがほしかったかな、と思う。
そんな成り行き任せの交際も、来年で3年目に突入する。正直にいえば、よくぞこんなに破天荒な私とつきあってくれていると思う。一ヶ月に一度は「もう別れる」と叫び、三ヶ月に一度はきまぐれに「大好き」と甘える。まるで子どものような私を嫌いにならないのか、と聞くと彼は「面白いし、もう慣れたよ」の一言。
「蓼食う虫も好きずき」とはまさにこのことだと実感した。この出会いに感謝しなくてはいけない。
もうすぐバレンタインデー。巷には早々とお菓子づくりのキットが売られている。去年のバレンタインデーはいつになく大喧嘩をしてしまい、せっかく行列に並んで買った高級チョコレートを、イルミネーションがきらめく表参道で彼に投げつけて帰ってきたという苦い思い出がある。だから、今年こそは感謝の気持ちを込めてチョコレートを渡しにいきたい。私の蓼食う虫は、ビターチョコレートが大好きだから、一緒にコーヒーでも送ろう。仕事終わりに落ち合って、寒くて暖かい夜の道を歩きたいと思う。