第 3406 号2014.05.04
「 母を待つ週末 」
行方行(ペンネーム)
母が座骨神経痛になったのは半年前のことだ。
七十前だというのに、書道教室に通い、太極拳を覚え、自宅の庭をバラ園のようにするだけでは飽きたらず区役所の前の花壇の手入れまでしていた元気な母だったのに、
「いちど座ると腰が曲がらない」
「寝返りをうつのも辛い」
「腕もあげられない」
とあちこち痛みを訴えるようになり、医者に看てもらって座骨神経痛と判明しても、もらった薬が合わなかったのか快方に向かうどころか悪化の一途を辿った。
「今週はごめんなさい」
週に一回参加していたカルチャースクールにも顔を出せなくなり、母は昼間でも家にいるようになった。家事をするだけでも辛そうで、痩せて、元気もなくなったようだった。
息子である私は一緒に住んでいない。
週末、なるべく実家に帰って買い物に付き合うことにした。といっても買い物袋を持ってスーパーから家まで十分ほど歩くだけだ。
膝も悪くしているらしく、母の歩みは遅かった。話しながら歩いているといつの間にか後ろにいるので、隣に来るまで待ち、並んだところでまた歩き出す。母が言った。
「ごめんね、遅くて。先に行っていいよ」
私は黙って母を待った。
困ったように嬉しそうに母が歩いて来る。
ゆっくりとゆっくりと歩いてくる。
私はただ見守っている。
病院と薬を変えたら、母の様態は驚くほど改善された。節々の痛みがなくなって、よく眠り、よく食べられるようになったらしい。
足の運びもきびきびとして、買い物も苦にならなくなったそうだ。
「じゃあ、当分はそっちに帰らなくていいね」
私が言うと母は子供のように怒った。
「座骨神経痛のほかにも痛いところがたくさんあるんだから、ちゃんと帰って来なさい」