「 フルーツタルトケーキの思い出 」
匿名
友達に誘われてお料理教室に行った。作ったのは、季節のフルーツタルトケーキ。お料理教室の先生は教え方が本当に上手で、きれいなタルトが焼けて、おいしそうなカスタードも出来、上にのせる沢山のフルーツもキラキラしている。まるで幸福な宝石みたいなフルーツタルトケーキが完成したのだった。
出来上がったケーキをそーっと箱に入れて教室を出た。友達は彼に渡すと言うのだけれど、残念ながら彼のいなかった私は「パパとママにでもあげようかな」と思った。仕方ないか、みたいな気持ちで。そもそも、そんなに甘いものが好きな両親ではないのだ。
ところが、家に帰ってケーキの入った箱を渡すと、二人は思いの外とても喜んでくれた。単なるフルーツタルトケーキではなく、私の作ったフルーツタルトケーキだったから。私もとても嬉しくなった。夕食後、ケーキは本当にあっという間になくなってしまった。
母はお茶を飲みながら楽しそうに言うのだった。「10代の頃にね、念願のオーブンを買ってもらって、何回かパウンドケーキやシュークリームに挑戦したの。その試作品をおじいちゃんが嬉しそうに食べていたのを思い出したわ。おじいちゃんも今のママと同じ気持ちだったのね」。そして、亡くなった祖父を思い浮かべるようにして、ちょっと寂しそうに続けた。「でも、あんな試作品じゃなくて、このくらい素敵なケーキを作って食べてもらえばよかったなあ。胸がちくちく痛いな」。
私も密かに胸がちくちくと痛んだ。仕方ないか、なんて思ってただなんて。「今度はちゃんと愛情込めてケーキを作ろう!」と心に誓って、早速お料理教室に電話をかけた。あと、何十年かしたら、娘が何の気なしに焼いたケーキを、私もニコニコしながら嬉しそうに食べるのかな。今日のフルーツタルトケーキとママの話を、食後にしみじみと喋ったりするのかな。そんな未来の自分の姿をちょっと想像しながら。